小泉首相「おかしい人」発言損害賠償等請求事件

 

 

                                                2001年12月25日

 

大阪地方裁判所 御中

 

                                                     原    告    44名

被    告    小泉純一

                                 外1名

 

 後記のとおり訴えを提起する。

 

原告ら訴訟代理人(復代理人)

                                          弁護士  14名

                       (記名捺印欄別紙)

 

 

                          ( 証 拠 資 料 )

 

甲1〜5号証    いずれも2001年11月1日付け日本各紙夕刊記事

甲6,7号証    いずれも2001年11月3日付け韓国各紙朝刊記事

 

                          ( 添 付 書 類 )

 

1 訴状副本                                        

2 甲号証写し                                       各3

3 謝罪広告見積書                1通

4 訴訟委任状                                     45

 

 

 訴   額     金2239万2950円也

 貼用印紙額      金  10万7600円也

 予納郵券額   金     6900円也

 

 

 

        訴額算定過程

         損害賠償請求額   5万円×45人=225万0000円

          謝罪広告費・日本各紙       1919万2950円

          同  上 ・韓国各紙(算定不能)    95万0000円

 

(合計)         2239万2950円

 


被告目

100-0013 東京都千代田区永田町二丁目3番1号  首相官邸

                        被      告       小  泉  純 一 郎

 

100-0013 東京都千代田区霞ケ関一丁目1番1号

                        被      告      

                        代表者法務大      森  山   眞  弓


 請求の趣 )

 

1.被告らは各自連帯して,

(1) 原告それぞれに対し,金5万円およびこれに対する2001(平成13)年11月1日から支払い済みまで年5分の割合による金員を支払え。

(2) 別紙新聞目録記載の各新聞に,別紙謝罪広告目録記載のとおりの謝罪広告を各1回掲載せよ。

2.訴訟費用は被告らの負担とする。

との判決,並びに第1項(1)につき仮執行の宣言を求める。

 

( 請求の原 )

 

1.      被告小泉純一郎の靖国神社公式参拝

 

 被告小泉純一郎は,内閣総理大臣として,2001年8月13日,宗教法人靖國神社の経営する神道の宗教施設靖國神社(以下,靖国神社と表記する)に参拝した(以下,この参拝を「本件公式参拝」という)。

 

2.原告らの訴訟提起

 

(1)   大阪,松山,福岡での訴訟提起

  本件公式参拝につき,2001年11月1日午前,639名が大阪地方裁判所に(大阪訴訟),65名が松山地方裁判所に(松山訴 訟),被告を小泉純一郎,内閣総理大臣小泉純一郎,国,靖国神社として,本件公式参拝の違憲確認,今後の公式参拝差し止め,国家賠償等を求めて訴訟を提起 した。また,211名が福岡地方裁判所に国家賠償等を求めて同旨の訴訟を提起した(福岡訴訟)。

   別紙当事者目録記載原告番号1ないし33の原告らは大阪訴訟の原告らの,同目録原告番号34ないし35の原告らは松山訴訟の原告らの,同目録原告番号36ないし45の原告らは福岡訴訟の原告らの,各一員である(以下,これら3個の訴訟をあわせて「小泉靖国参拝違憲訴訟」という)。

 

(2) 小泉靖国参拝違憲訴訟における原告らの主張

 小泉靖国参拝違憲訴訟における原告らの主張は,概略以下のとおりである。

@ 自己の肉親が被告国によって戦争に駆り出されて命を奪われ,靖国神社に合祀されている原告らは,戦没者遺族として,肉親の死をそれぞれの宗教的立場,非宗教的立場から深く悼み続けている。

しかし,他者,とりわけ国あるいはその代表者である内閣総理大臣から敬意や感謝を捧げられたいとか,肉親の死を意味づけされたいとは決 して考えていない。むしろ,それぞれが静謐な宗教的あるいは非宗教的環境のもとで,肉親への思いをめぐらせることを望んでいる。本件公式参拝によってこの 自由が侵害された。

在韓の韓国人遺族である原告らは,その親族が日本の植民地人民として,侵略戦争に駆り出された当事者である。韓国人戦没者らは,数千万 人の生命を奪った日本の侵略戦争に加担させられ,被支配民族であるにもかかわらず,アジア諸国の民衆に対する関係では「侵略者・加害者」にさせられた。そ の上こともあろうに,戦没「日本軍人・軍属」として靖国神社に合祀されて,「大日本帝国」のために戦死した「英霊」として顕彰され続けている。

これによって,韓国人戦没者の遺族である原告らは,その民族の誇り,民族的人格権を著しく傷付けられ,その苦痛は計り知れないものがある。

  A 戦没者遺族の原告らはもとより,戦没者の遺族ではない原告らも,たとえ戦争であっても,国の命令であれば人を「殺す」ことも許 されるとか,それが英雄的行為となるといった考えは間違っているとの思想・信条を持っている。それは死生観と密接不可分の,原告各自の思想・信条の根本的 部分であり,憲法20条と同法13条で保障された宗教的あるいは非宗教的自己決定権の中核的内容である。

    本件公式参拝は,同参拝前後に行われた被告小泉の繰り返しの政治的信念吐露とあいまって,戦没者を「神」として「英霊」として慰霊顕彰する靖国神社の特殊な信仰・思想を,国が支持することを内外に公に表明し,もってこれを援助・助長・促進したものである。

    その結果原告らは,それぞれが持つ宗教的あるいは非宗教的思想・信条・死生観に対する圧迫・干渉・脅威を受けた。「国の命令に よる破壊と殺人」という本質を免れない戦争,その戦争に駆り出されて戦死すれば,靖国神社が「神」として「英霊」として慰霊顕彰してくれ,しかもその仕組 みを国が援助・助長・促進するというのでは,それぞれが有するいかなる道徳律も,宗教的あるいは非宗教的自己決定権も成り立ちえない。

    原告らは,本件公式参拝によって各自が有する宗教的あるいは非宗教的自己決定権を侵害された。

 

3.被告小泉純一郎の不法行為

 

(1) 被告小泉純一郎の行為

    原告らが小泉靖国参拝違憲訴訟を提起したことは,直ちに被告小泉に伝えられた。

被告小泉は,同日午前,首相官邸において,記者団から小泉靖国参拝違憲訴訟についてコメントを求められ,

「話にならんね。世の中おかしい人たちがいるもんだ。もう話にならんよ。」

と,訴訟の内容についてよりも,訴訟を提起した原告らについて,上記のとおり「話にならないおかしい人たち」と非難した(甲1〜5号証。以下,この発言を「本件発言」という)。

 

(2) 本件発言の違法性,損害

   原告らの前記主張内容とはまったく無関係に,訴訟を起こした原告らそのものを「話にならないおかしい人たち」と非難した本件発言は,以下のとおり,原告らを著しく侮辱するものであり,かつ原告らの名誉を毀損するものである((2)−1)と同時に,原告らの裁判を受ける権利を侵害するものであって((2)−2),不法行為を構成する。

 

(2)−1 名誉毀損

「話にならんね。世の中おかしい人たちがいるもんだ。もう話にならんよ。」という本件発言は,記者たちの求めに応じてしたコメントであるから報道を前提としている。かつ,小泉靖国参拝違憲訴訟の原告らに関して,「話にならないおかしい人」であると,事実を摘示してもっぱら人格的非難,揶揄,中傷を行ったものである。

同発言は明らかに,自己が被告とされた訴訟の内容そのものに関するコメントではなく,人身攻撃にほかならないから,被告小泉個人として,あるいは被告内閣総理大臣ないし被告国として,許される正当な論評の範囲を逸脱している。

原告らは,本件発言によってその名誉感情を傷付けられ,かつ社会から受ける人格的評価を低下させられ,名誉を毀損された。

 

(2)−2 裁判を受ける権利の侵害

  @ われわれは等しく,「裁判を受ける権利」を有する(憲法32条)。裁判を受ける権利は,すべての人が平等に,政治部門から独立 した公平な裁判を受ける権利であり,これは市民の権利自由を確保するために重要・不可欠な権利であり,いわば権利実現のための権利として位置づけられてい る。

    したがってまた,裁判を受ける権利は三権分立制度を根底から支えるものであり,とりわけ政治部門のなす非違行為から市民の権利 自由を守る砦として機能することが制度的に要請されているものである。そして,近代的な司法権にとって最も重要な原則は,裁判が政治的な圧力・干渉を受け ずに,法に基づいて厳正・公正に行われなければならないということである。

このことから,政治部門が具体的な裁判に関して干渉にわたる行為・言動をなすことの禁止が,強く要請される。とりわけ,国家機関それ自身が裁判の当事者となっている場合には,この要請はより一層強く働く。

  A 原告らが被告小泉純一郎と国らを被告として小泉靖国参拝違憲訴訟を提起したのは,すでに2項で述べたとおり,自らが被った被害の回復等を求めて,憲法によって保障された上記「裁判を受ける権利」を真摯に行使したのである。

  そのような原告らについて,「話にならんね。世の中おかしい人たちがいるもんだ。もう話にならんよ」 とした本件発言は,裁判一般ではなく具体的な裁判となっている本件小泉靖国参拝違憲訴訟の原告らについて,政治部門の中枢にあり国の機関であり,国を代表 する内閣総理大臣被告小泉純一郎が,これを揶揄,中傷したものであって,政治部門が具体的裁判に干渉することを禁止する前記要請に反して明らかに違法であ る。その違法の程度はきわめて強い。

  原告らは,本件発言によって,裁判を受ける権利を侵害された。

 

(2)   −3 損害額

名誉毀損,および裁判を受ける権利の侵害は,原告らの人格に対する攻撃として原告らの心に深刻な傷を残した。その精神的苦痛を仮に金銭に換算すると,原告ら各自につき金5万円を下らない。

 

4.本件発言の公務性

 

    被告小泉純一郎は,首相官邸において,内閣総理大臣として本件発言をなしたものであるから,本件発言は「その職務を行うについて」(国賠法1条1項)なされたものである。

 

5.被告らの責任原因

 

(1)   被告小泉

被告小泉純一郎は,きわめて悪質な人身攻撃であり,裁判上予断を与える本件発言を故意に行ったものであり,したがって,自らも民法709条に基づき,原告らに対し,本件発言により原告らが受けた名誉毀損と,裁判を受ける権利の侵害による損害を賠償する義務がある。

   また,これと共に,損害賠償のみでは十分には回復されない原告らの名誉を回復する適当な処分として,同法723条に基づき,本件発言が報道された日韓の主要各紙に謝罪広告を出す義務がある。

 

(2)   被告国

被告国は,公務員である被告小泉純一郎がその職務を行うについて,故意にかつ違法に本件発言をしたのであるから,国家賠償法1条1項に基づき,本件発言により原告らが受けた後記損害を被告小泉純一郎と連帯して賠償する義務がある。

また,国家賠償法4条によって準用される民法723条に基づき,謝罪広告を出す義務がある。

 

6.結論

 

    よって原告らは,被告らに対し,前記各責任原因に基づき,請求の趣旨第1項(1)記載のとおり,原告各自につき金5万円の損害賠償,およびこれに対する本件不法行為の日である2001年11月1日から支払い済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の連帯支払いを求め,あわせて,同項(2)記載のとおり,謝罪広告の掲載を求める次第である。

   以  上

 

                       


新聞目

 

 

 (日本の新聞)

   朝日新聞,毎日新聞,讀賣新聞,日本経済新聞,産経新聞の各全国版

 

  (韓国の新聞)

      東亜日報,朝鮮日報,中央日報,ハンギョレ新聞の各全国版

 

 

 

謝罪広告目

 

 

1.体裁(大きさ)

(日本の新聞)

  2段 × 15センチメートル

(韓国の新聞)

  10センチメートル × 20センチメートル程度 

2.広告文

 

(1)  私小泉純一郎は、2001年11月1日、首相官邸において、私が同年8月13日に、内閣総理大臣として靖国神社に公式参拝したことに対し て、同日、大阪、松山、福岡の各地方裁判所に、違憲確認、損害賠償、靖国神社公式参拝の差止の訴訟を提起された原告の皆様について、「話しにならんね。世 の中おかしい人たちがいるもんだ。もう話しにならんよ。」と発言しました。

(2)  私のこの発言は、原告の皆様のそれぞれが有している静謐な宗教的あるいは非宗教的な人格権の行使に対して、それを異端視し、原告の皆様の裁判を受ける権利に干渉したばかりでなく、原告の皆様の人格を著しく侮辱し、名誉を毀損しました。

とりわけ、在韓国原告の皆様の親族は、日本の植民地支配の結果、日本の侵略戦争に駆り出され、被支配民族であるにもかかわらず、日本の加害行為に加担させられ、あまつさえ、靖国神社に、A級戦犯者と共に「英霊」として顕彰され続けています。私の今回の発言は、在韓国の原告の皆様に対して、痛苦な歴史的事実を省みることなく、二重三重の苦しみを与え、人格を著しく侮辱し、かつ名誉を毀損しました。

(3)  私の今回の発言は、内閣総理大臣としてあるまじき暴言であり、原告の皆様に対して、皆様の名誉を回復するために、深くお詫びいたします。

年  月  日

 

                         小泉純一郎

                                           日本国内閣総理大臣 小泉純一郎

 

小泉靖国参拝違憲訴訟の原告各位